激情



馬乗りに抑え込み、手で口を塞いだ。
苦しげに顔を顰める弓親を見下ろし、修兵は嗜虐的な微笑みを浮かべる。

「これじゃあ、お得意の鬼道は使えないよなぁ。」

不覚、どころではない。
何度も出入りしている、九番隊の執務室。
危険など何もないはずの場所を訪ねるのに、弓親は帯刀すらしていなかった。
詠唱破棄は副隊長を相手に出来る威力はない。
手を噛み切ろうと歯に力を込めたところで、縛道により動きを封じらる。
修兵がなぜ急に逆上したのか、見当もつかない。
それでも弓親は不安な胸中など表に出さず、キッと修兵を睨みつけた。

「俺をあまり見縊るなよ。」

修兵は弓親の着物を剥ぐと、首と右腕を覆う布の紐状の部分で両腕を縛り上げた。
腰紐で猿轡を噛ませる。
それでもなお揺ぎの無い瞳に気圧された修兵は、己の狼狽を否定するかの如く、乱暴に弓親の股を開いた。
修兵の瞳が怒りではない炎を宿したのを見て、弓親はきつく目を閉じる。

「…ぅ、ぐ…」

弓親は股を裂く焼かれるような強烈な痛みを、歯を食い縛って耐える。
唇が切れ、腰紐が桃色に染まった。
容赦なく蠢く修兵の男根が、弓親の内側を破壊する。
涙と脂汗と涎と血液が、混ざり合いながら首を伝った。
白い肌を流れる紅い軌跡が、甚だしい程に興奮を誘う。
修兵はゴクリと息を呑み、うっすらと色付いたその線を舐め取った。

「…綾瀬、川…」

血液が潤滑剤となり、修兵の雄は調子よく卑猥な音を立てる。
荒くなる呼吸と共に、速くなる腰の動き。
痛みに失神した弓親に構わず、修兵はその中に精液を注いだ。
萎えたモノを引き抜くと、夥しい程の血液が溢れた。
あまりの光景に呆然とする。
男同士でのやり方など知らない。
男に慣れた弓親がこれ程までに傷付くなどと、思いもしていなかった。

「…嘘だろ…」

ほんの少し痛い目に合わせてやろうと思った。

「おい、綾瀬川!」

仕事が一段落すると、弓親はよく九番隊の執務室を訪れた。
『一人で使うなんてもったいないでしょ』と、我が物顔でお茶を啜りつつ言っていた。
賑やかな十一番隊では、ゆっくり休むことが出来ないようだ。
いつしか弓親好みの調度品が増えた部屋。
比例するように弓親を想う心も増していた。
人を思うが故に、人に思われているなどと夢にも思わない。
気が付かないということは、時として残酷だ。
胸元にチラリと見えた情事の痕。
安心しきった無防備な体。
無性に腹が立った。
ウトウトと眠り始めた弓親を、組み敷いた。

「綾瀬川!!」

縛道など疾うに解けているのに、ピクリとも動かない。
濡らした布で丁寧に清め、四番隊から支給されている血止めの薬を塗る。
冷え切った体を温めるために抱きかかえた。
弓親の肌に、ポタポタと涙が落ちる。

「…なんで、君が泣くのさ…」

掠れた、微かな声。

「綾瀬川…死ぬのかと思った…」

「…バカ…そんな間抜けな顔されたら、怒れないじゃない。」

「…すまん…」

抱きしめる腕に力を込める。
痛いよと、弓親は顔を顰めた。

「…お前、もうここには来るなよ。来ないと思うけど…」

「来るよ。」

弓親の即答に、修兵は呆気にとられた。

「は?お前、こんな目にあって…」

「だって君、もうこんな事しないでしょ?」

確かに、恐ろしくて二度とやりたくない。
最中の快感など吹飛ぶほどの恐怖だった。

「…確約は、出来ないけどな…」

「大丈夫。もう、そう簡単にはさせないよ。」

弓親の凄艶な微笑みに修兵は絶句する。

「ねえ、お茶入れてよ。君の入れるお茶、好きなんだ。」

こいつには、敵わない…
修兵はのろのろと立ち上がった。

「…ごめんなさい…」

弓親は修兵に聞こえないように、小さく呟いた。











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