衝動
「おうお前ら、毎日毎日何を騒ぎよるんじゃぁあ?」
大部屋での騒ぎを聞きつけて、鉄左衛門が駆け付ける。
十一番隊が騒がしいのはいつもの事ではあるのだが、ここ数日は特に酷い。
「射場三席!こいつらぶった斬ってもいいっすかね?」
現れた上官に殺気立って捲くし立てたのは、先日入隊した斑目一角である。
鉄左衛門はこの好戦的な新人隊士に懐かれていた。
「一角、何があった?」
「どいつもこいつも弓親に欲情しやがって、落ち着いて寝れやしねえ。」
一角の背に庇われたのは、美貌の麗人。
「綾瀬川、か…」
荒くれ者ばかりのこの隊では、虎の群れに兎を放つようなものだと、鉄左衛門も危惧していた。
上位席官以外の隊士は、大部屋で生活する事になっている。
ほかの隊は女性死神用の部屋を用意していたりするのだが、副隊長以外、女性が入ったことがない十一番隊にはない。
上席の登場に体を固くして畏まっいる死神たちを見やる。男として気持は分らないでもないのだ。
一角と弓親に視線を戻し、鉄左衛門は少しばかり思案する。
「綾瀬川、わしんとこ来いや。」
「…はい…」
ざわめきの中、連れたって大部屋を後にする。背後に弓親を感じ、鉄左衛門は落ち着きなく胸を掻いた。
細い肩をこの胸に抱きしめたい衝動に駆られる…
広い胸に飛び込みたいと、体が求めて已まない…
「まあ、お前ならすぐに席官になれるじゃろうが、それまではここを使うといい。」
三席の座は譲らんがのうと、豪快に笑いながら荷物を整理する鉄左衛門を、弓親は不思議そうに眺める。
「射場三席は?」
弓親の声が震えている。己の顔に怯えたのだろうと、できる限りの笑顔を作る。
「わしゃ大部屋で寝るけえ安心せえ。」
「そういうわけには…」
弓親が聞き入れないでいると、鉄左衛門は神妙な面持で言いにくそうに言葉を続ける。
「わしもあいつらと同じ男じゃけぇ、お前に手ぇ出さねぇ自信がねぇ。」
「構わない。貴方の胸に…埋まりたいと、思っていました。」
艶やかな黒髪が、鉄左衛門の胸を撫でた。弓親が抱きついてきたのだと、脳が遅れて理解する。
思わず抱きしめた体は思った以上に華奢で、鉄左衛門の胸にすっぽりと納まった。
「綾瀬川…」
「貴方が、欲しいんだ…」
着物を脱ぎ棄てた弓親の、白い肌から目が離せない。
首に回された滑らかな腕が、鉄左衛門の迷いを掃い落していく。
「…どうなっても、知らんけぇのぉ…」
鉄左衛門は諦めて座り込むと、弓親を膝の上に抱え、遠慮がちに啄むように、唇を重ねた。
薄く開かれた花唇に誘われるまま、舌を絡め、唾液を絡め、吐息を絡める。
「ぅん…っはぁ…あ…」
弓親の猥らで大胆な喘ぎに、鉄左衛門の欲望が嵩を増す。
どこに刺激を加えても、甘い反応が返ってくる。
感じやすそうな部分を丹念に攻めると、いつしか弓親の躯全身が性感帯となっていた。
「綾瀬川、ここもか?」
面白がって身体中を舐めまわしていると、触れてもいない先端から、ドロリと先走りが垂れた。
「も、はぁ…ん…もぉ、さわ…て…」
「どこを弄って欲しいんじゃ?言わんと解らんじゃろ?」
「…ここ、と…後ろ…も、欲しい…」
弓親は意地悪く笑う鉄左衛門の太い塊をやんわりと掴み、形を確認するように丹念に撫でる。
互い扱き合いドロドロになった肉棒が擦れ、互いに色めいた息を漏らす。
「よぉし。可愛ごぉてやるけぇの。」
ねっとりとした精液を絡ませた鉄左衛門の指が、弓親の白い双丘を割った。
「ああ…ん、んぅ…」
腰を拗らせ獅噛み付く弓親を片手で抑え込み、指を増やして掻きまわす。
「どうじゃ?ええんか?」
「い…ぃ、もっと…いば、さん、せ…」
色気のない呼ばれ用に、鉄左衛門は舌打ちして指を引き抜いた。
「鉄じゃぁ。鉄と呼べぇ。」
「て…つ、さん…?…っあ、あああん…」
名前を呼ぶと同時に太く大きなモノに貫かれ、弓親が高い悲鳴を上げた。
容赦ない突上げに、弓親の腰が揺れる。
「随分と、淫乱じゃの」
「て、つ…さ…も、ぉ…イかせて…」
「綾瀬川…」
切羽詰った声に、鉄左衛門はプルプルと震える雄を勢いよく扱く。
程無く、あぁと、声を漏らし弓親が達すると、締まった穴が熱いものに満たされた。
部屋に備え付けられた浴室から出ると、鉄左衛門は髪も乾かさずに布団に傾れ込んだ。
先に寝る準備を調えていた弓親が、そっとその隣に潜り込む。
「やっぱり、思ったとおりだ。相性最高だね…鉄さん。」
「…そう、じゃのう…」
抱き合うと、妙な程しっくりくる。
満足感に浸りながら、二人は眠りへ堕ちていく。
一方大部屋の一角はと言うと、久方ぶりの弓親のいない就寝に、眠れぬ夜を過ごしていた。
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