やさしい愛なんていらない
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「気が付いたか?」
目を覚ますと見知らぬ部屋で、見知らぬ男の心配そうな顔が覗いていた。
「あなたは…?」
「ただの通りすがりじゃぁ。それよりあんた、他人の霊力を喰ったようじゃのぅ。」
男は弓親の全身をまじまじと見つめる。
そのような事に心当たりのない弓親は、困惑した表情で男を見返した。
「あんたの中に2種類の霊力を感じる。妊婦みたいなもんじゃ。精神的にも肉体的にも不安定じゃろぉが。」
「…はい…」
妊婦と言われて、ドキリとする。
原因がSEXならば…心当たりが、ある。
「無意識に流れ込んできたんかもしれんがのぅ。よほど強い霊力の持ち主と、ぶつかりでもしたんか?」
ぶつかった、どころではない。
『俺の元まで来ることができたなら、もう一度ヤってやるよ。』
凶悪な面の、子連れの男…
抗う事など出来なかった。圧倒的な、霊圧。
「まあ、そのうち自分の霊力に吸収されるじゃろぉけ、しばらく寝ときゃぁええ。」
「…はい…」
「わしゃそろそろ行かんといけんが、宿代はあと十日分払ってあるけぇ、ぼちぼちしていきな。」
「え?あの…」
「金ならあるけぇ、遠慮はいらん。」
「でも…」
「あんた美人じゃけえ、わしが勝手に助けちゃりたいんじゃ。」
豪快に笑う男に、弓親は諦めて世話になることにした。
親切など無縁の流魂街で怪しい事の上ないが、やたらと眠たい。
弓親はもうどうでもいいと、目を閉じた。
「そんじゃあ、もう二度と会うことはないじゃろうが、達者でのぅ。己の体、大事にせえ。」
男はすでに深い眠りの中にいる弓親を残し、部屋を後にする。
別に親切心で助けた訳ではなかった。
扉の向こうの、霊圧を探る。
隊長を殺し、そのまま新しい隊長に腰を据えた男…
「更木、剣八…」
紛れもなく、自分の上司となった男の霊力だ。
流魂街での任務を終え、母のいる自宅へ寄ろうと足を延ばした先で、知った霊圧を感じた。
気になって近づくと、霊圧の主が目の前で倒れたのだ。
何があったのかは想像に難くなかった。
強さだけが求められる十一番隊に、疑念が募る。
「まあ、言うても詮無い事じゃがのぉ…」
己の生きる道に必要なのもまた、強さなのだ。
男は、己の身を置く世界へと歩き始めた。
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