偽りの世界で、僕らは愛し合う


虚無の恋人



「綾瀬川さん、足、広げて…」

荻堂は箱から薬…というより化粧品の入物に近い、透明の容器を取り出した。

「荻堂君、それ…なに?」

弓親は言われた通りに足を広げながらも、不安そうに尋ねる。

「変なものじゃありませんよ。使ったことありませんか?」

クスリと笑う荻堂に、弓親は首を横に何度も振る。
使ったことがないという意味よりは、使うのを止めてくれということだろう。
荻堂は構わず、その容器からねっとりとした液体を手に取った。

「ひゃ…ぁん…」

後ろに指を差し入れると、弓親は一際高い喘ぎを漏らした。

「イイですか?それはよかった。」

中で蠢く指に、弓親は嬌声を抑えられない。
液体の正体など、すぐにどうでもよくなった。

「ヤ…ぁ」

快楽の絶頂が近ずくと、動きを封じるために弓親は荻堂にしがみついた。

「嫌?こんなに、ホラ。貴方のココはドロドロですよ。」

密着した肌で、弓親の熱を感じる。
触れてもいないのに、先端から先走りを溢れさせている。

「や…だ、もう…いく…」

「いいんですよ。先にイってください。」

戸惑う弓親の、前立腺を刺激する。

「荻ど…く、んッ…あ、ぁあん…」

ブルリと震えて精液を腹に放ち、弓親は半ば放心して荻堂を見つめた。

「いっぱい出ましたね。そんなに好かったですか?」

弓親は荻堂の間延びした声に、不満そうな表情で髪を掻き、耳に掛ける。

「荻堂君も、好くしてあげるよ。」

負けず嫌いな挑戦的な視線を向けると、荻堂の股の間に顔を埋めた。
睾丸まで丹念に舌で舐め、指でさする。銜えて、ジュボジュボと音を立ててしゃぶる。
弓親は思い出したように口を放すと、先程の容器を取った。
荻堂の、涎と先走りとでヌラヌラと光っている塊に、液体を垂らす。

「ン…」

冷たい感触に堪らず荻堂が声を出すと、弓親は満足気に頬笑んだ。

「も、入れるよ?」

上に跨り男根を手に取ろうとする弓親を、荻堂が制した。

「駄目です。僕が、入れますから。」

「どっちでも、同じじゃない。」

荻堂は首を傾げる弓親の後に手を回し、ちょうど顔の辺りになった胸に耳を押し当てる。

「そうですか?結構違うと思いますよ。」

心臓の音を、聞く。
弓親は荻堂の柔らかい髪の毛を撫でた。

「どうしたのさ?」

「ちょっと、甘えたくなったんです。」

「萎えちゃうよ?」

「持久力ありますから。」

弓親もそのまま腰を下ろし、荻堂の背中に手を回す。
重なった心臓。
混ざり合う、心音。
一人、取り残された…二人。
走り出したのが彼なのか、歩みを止めたのが自分なのか。

「ねえ、荻堂君…キス、して。もっと、息が出来ないくらい…」







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